製本界 令和8年1月号
表紙の解説
アナログとデジタルの境界を越え、製本を通じて「明るい未来」を都市にもたらす、新たな可能性を表現

アナログとデジタルの境界を越え、製本を通じて「明るい未来」を都市にもたらす、新たな可能性を表現
年頭のご挨拶
東京都製本工業組合 理事長 鈴木 博
令和8年の新春を迎え、謹んでお慶び申し上げます。日頃より組合運営にご理解ご協力をいただき御礼申し上げます。
昨年の国内政治においては、高市政権が憲政史上初の女性首相として発足しました。物価高対策を柱とした総合経済対策、エネルギー安全保障などの課題に対応した成長戦略に期待したいと考えます。
産業界では、AIの進化により、あらゆる産業構造に変革をもたらしています。既存モデルが大きく変容しており、我々製造現場の人間にしかできないことは何かが問われる岐路に立っている。AIをどう活用し現場の何を残していくか、創る人間の価値をいかに未来につないでいくかが問われています。
今年1月1日より下請法が改正され「中小受託取引適正化法(取適法)」として施行されました。手形払いの禁止や支払期日の厳守など、義務内容と禁止行為が厳格化されています。長年の取引適正化と価格転嫁の取組みに対し、社会的な流れが次のレベルへ移行することは間違いありません。まだ「取引停止を恐れて価格転嫁交渉を申し出ていない」という方も是非この機会に取り組んで頂ければと思います。
組合では、製本業界を次世代へ繋ぐため、中期的な柱の事業として、東京都および東京都中小企業団体中央会による「団体連携型事業承継支援事業」を本格化しております。今年度は、皆さまの関心を高め、少しでも自社なりに出来ることに着手して頂くため、私から各支部へ説明に廻りました。提供する内容は様々ありますが、啓蒙的なセミナーや承継状況に関する診断、個別相談対応だけでなく、次世代の経営者育成を主眼とした勉強会と個社伴走支援まで提供できることが、これまでと異なる特筆すべき取組みと考えています。
後継者が決まられている方、事業を引き継がれたばかりの方、製本事業を継続すべきか悩まれている方等、各社の様々な状況にも対処できる内容となっております。この機会にぜひ参画頂ければと希望します。事業環境は厳しさを増す中、残念ながら突然の廃業等も無くならない状況は継続しています。各社が自社の状況に鑑みつつ、少しでも良い形で事業を継続できる手段を考え行動を起こすきっかけとして活用頂くことが大きな目的の一つと考えています。
今年は組合役員組織の改選期となります。5月には私も3期6年の任期を務めあげることとなり、次の世代へバトンを渡すタイミングと考えております。思えば就任後すぐコロナ禍という未曾有の危機に直面し多くの期間を対応に費やすことになりましたが、組合員皆さま、関連業界皆さまのご支援と団結により乗り越えることができたと考えております。ここで改めて感謝申し上げます。
今年一年が皆様にとって素晴らしい一年となりますことを祈念して、新年のご挨拶とさせていただきます。
私ども製本+シナジー創造特別委員会では、「紙の価値向上」「製本業の地位向上」を目指して様々な試みを行ってまいりました。今回はその一環として「製本を科学する」というテーマに昨年から取り組んでいます。
現在の製本業を取り巻く環境は国内市場の縮小による景気低迷や新たな媒体の出現、いわゆるインターネットの普及による情報の伝達媒体の電子への移行、アップルのiPadやソニーのReader あるいはアマゾンのkindleといった電子端末の普及による電子化への移行といった現象によってそのビジネスモデルの基盤が揺らいでいます。
繰り返しになりますが、私たちのミッションは「紙の価値向上」と「製本業の地位向上」です。こういった時代背景の中でいかにしたら紙の特性を生かし、紙でしか表現できない伝えることのできない、あるいは紙でなくては出来ないものとは何か、そしてその紙の加工に従事している私たちは今何をすべきなのかを検討してきました。その解が「製本を科学する」ということなのです。
私たちは日常の作業の中で技術の継承として、頭で記憶するのではなく体で覚えることで受け継がれてきた紙を加工するという行為について、一度検証してもいいのではないかと考えました。ひとつの作業や材料が意味するものやことといった事象は何のためにあるのか、どういう環境下で作業するとどういう現象が起きるのか、実は知らないことが多々あるのではないかという疑問が浮かんだのです。冬の乾燥期に出来た上製本が書店に平積みしていたら表紙が反り返ってきた。ひと夏倉庫で眠っていた並製の本がパラけた。糊の層が切断面までないために表紙がむしれて仕上がっている。背割れしている。観音ののどが角折れしている。複写が発色している。小口糊の箇所の表紙の表側の色が変色している。ミシン目を入れたら割れるように取れてしまう。これらは一体何が原因なのか。その原因の根本を探るには、まず継承してきた技術を業界常識としてとらえるのではなく、なぜそうするかということを一度掘り下げてみることで、事故の未然防止や新たな製造方法あるいは製品開発の発見につながるのではないかと考えます。
丸背のRは何度が適正なのか?チリの幅は決まっているのか?ホットメルトの糊の層は何ミリが適正か?といったことからPUR接着剤は果たして環境にやさしいのか?本にとってもっと有効な糊があるのではないのか?といった疑問、あるいは断裁機の包丁の刃が磨耗するのはなぜなのか?超硬とハイスではなぜ刃もちが違うのか?コート紙を断裁するのに何tで何ストロークするとどのような現象が発生するのか?そもそもかぶりは何でおきるのか・・・等々、知っているようで知らないこと、あるいは今さら聞くに聞けないことをもう一度おさらいしようとする活動です。
そして、ここからが重要なのですが、こういった細かい疑問や質問を定性的ではなく定量的にとらえることなのです。「もうちょっときつくプレスをかけて」とか「もう少し糊を入れて」といったように勘や経験に基づいた判断ではなく、数値化することによって出来る判断を目指すのがこの活動になります。逆に言うとこれは基本なのです。これは最低条件なのです。その上で各社の積み上げてきた経験や体験が各社の競争力となっていくと考えるのです。また数値化することで標準化、見える化を推進し、より平易に基本的な技術の継承・伝承の助力になり、製本技術の進化発展に貢献できるのではないかと考える次第です。それこそが「製本を科学する」ということの真意なのです。
企業を評価する価値には機能的な価値としての設備や工場規模、立地、社員数、売上高、収益といった数値であらわされるものと、技術、知識、勘、作業場の工夫といった数値化できない、積み上げられてきたものである経験的な価値があります。製本+シナジー創造特別員会では、この積み上げられてきた数値化できない暗黙知といわれる定性的な分野を詳らかにすることによって、新たな価値の創造を目指そうとしているのです。機能的価値だけでなく経験的価値・意味的価値を向上させることで各企業の、コア・コンピタンス(その企業の核となる強み、なぜあなたの会社には仕事があるのですか?と問われた時の答えとなる解)を確認し、模倣困難性(プロが見てもどうやって作っているのかが見えない、わからない技術)を高めることで専業者としてのレーゾン・デートル(存在意義)を高めていければと考えています。