製本界 令和6年9月号
表紙の解説
『実り』『発展』『成長』製本の未来は明るく永遠に続く事を表現
『実り』『発展』『成長』製本の未来は明るく永遠に続く事を表現
商業印刷分野の製本を網羅し、創業50年超
株式会社多田紙工
補助金申請の最新情報を学ぶ〝攻め〟のシナリオが鍵に
「紙の未来講座」をシオザワで開催
塩澤社長を講師に熱い2時間「製本の切り口から新しい紙も」
付加価値向上や市場開拓の情報を共有、メーカー、代理店等とも協業
書籍・雑誌部会長になって
書籍・雑誌部会 部会長 牧 俊臣
この度、書籍・雑誌部会 部会長を拝命致しました北部支部の牧でございます。私の組合デビューはかなり遅く五十歳を優に超えた頃でした。それと申しますのも、ある日突然野々山製本の野々山社長(当時)が大村製本の大村社長(当時)を伴ってお見えになりました。大村社長が開口一番、ご自分が組合に入ったきっかけは私の父の鶴の一声だったと、だからお前も組合に出てこいとの事で、断る事が出来るわけもなくそれ以来、組合活動に参加させて頂いております。
当時は右も左も分からず戸惑う事ばかりでした。そうこうするうちに、書籍・雑誌部会、経営・環境委員会、製本健保と矢継ぎ早に参加することになりました。
書籍・雑誌部会においては前任者の共同製本金子様という十年来続いていた偉大な部会長の跡を継ぐ事となり、その責任の大きさを痛感致しております。製本業界を取り巻く環境も日を追うごとに厳しくなってきております。その中でいかにして有意義な情報を組合員の皆さんに提供できるかが大きな課題だと思っております。東京で開催された先の書籍・雑誌専門委員会に於いても資材高騰、人手不足、人件費の高騰、後継者不足、値上げ交渉の難しさ等の意見を異口同音で各県工組より頂きました。これはまさに日本の多くの中小企業の抱える問題であり、各々が複雑に絡み合っており一朝一夕で解決できるものではありません。時間は掛かりますが、解決していけるよう皆さまのお知恵を拝借しながら前へ進んでいければと思っております。どうか忌憚のないご意見をお寄せいただければと思います。
話は変わりますが私は例年7月の第一週の土日で三峯山に登拝しております。コロナが明けて久しぶりに参加者全員で一泊して日曜日の朝、御祈祷して帰って参りました。お山に登ると何とも空気がすがすがしく、霊験あらたかになって戻って参りました。昨今はパワースポットとして人気があり、若い女性の方々の登拝が増えているようです。八洲講という由緒ある講で100年以上の歴史があります。ご興味のある方はお問い合わせ下さい。因みに講元善新堂石坂様、副講元共同製本金子様と私牧、顧問池田製本所池田幸弘様となっております。
話を元に戻しますが、書籍・雑誌部会は会員の皆さまそして組合員の皆さまのお力添えなくしては成り立ちません。どうか皆さまご協力よろしくお願い申し上げます。
ご縁に感謝
紙製品製本部会 部会長 中村勝彦
今期より紙製品製本部会の部会長を拝命いたしました墨田支部の中村勝彦です。私がこの業界に入ったのは18年前のこと。部会には先代社長からお世話になっていましたが、入社して3、4年経ったころ、先代から仕事は年に2、3回くらいで簡単だからと気軽に紙製品製本部会の幹事長を打診されました。こちらもああそうですかとこれまた気軽にお引き受けしてしまったのが14年もの幹事長生活の始まりでした。ところが幹事長は年数回の部会とはいえ、事前の打ち合わせから会場手配、日時の連絡と出欠の確認など、テキトーにはこなせない要職です。当時の部会長は現在の鈴木博理事長でした。よくもまぁ私のような右も左もわからない製本ド素人を重要なポストにおいて下さったものです。
この業界に入る前まで、私は雑誌の編集者を3年、その前はというと写真週刊誌の記者を10年ほどやっておりました。記者時代では常に現場に赴き、目にしたこと耳にしたことを文字にしてきました。どんなことを取材してきたかというとここでは書けないこともいろいろあるのですが、日本最南端の無人島である沖ノ鳥島をこの目で見ることが出来たことはとてもよい思い出です。その後の編集者時代では新雑誌の創刊準備から携わらせていただき、読者に読みやすく現場の空気を感じてもらえるような文章づくりを学んできました。そのような経験を積んだ私が、いまこのような製本会社の経営者という立場におかれています。もともと記者として本の元となる情報を現場で集めて文字にしていた私が、次に編集者としてその文字情報を編集し、いまこうして情報伝達の最終工程を担うアンカー的な立場で製本しているのです。
ところで私が継いだ会社は、先代創業者の氏と名それぞれの上を取り中正紙工と言い、ローマ字ではNAKASHOとなりますが、自分の名前も中村のNAKA、勝を勝利のSHOと読み替えるとローマ字表記は同じになります。なんとも見えない製本業界へのレールの上を歩いてきた、いや歩かされてきたように感じます。そう考えると、10年以上前に紙製品製本部会の幹事長に取り立てていただいたこと、そして今回部会長の大任を仰せつかったこともきっとご縁があってのこと、次に繋がるなにか大切なものがあると感じています。
昨今ではデジタル化が進み、ネット上にはリアル、フェイク問わず文字情報があふれています。真偽を確かめるスキルを多くの人が身に付けなければ偽の情報に惑わされる世のなかで、コストをかけてリアルに印刷製本されたものは、エンドユーザーが安心して手にしてもらえるような価値あるものだと信じています。 幹事長就任当時の鈴木博部会長は8年もの長きにわたり紙製品製本部会をけん引してこられ、その後任として部会長となられた中村吉伸前部会長も6年にわたり部会を先導してこられました。私もこれまでの居心地よく垣根なく情報共有が盛んな紙製品製本部会の雰囲気を守りつつ、より良い業界の未来のため微力ながらお手伝いさせていただきます。
私ども製本+シナジー創造特別委員会では、「紙の価値向上」「製本業の地位向上」を目指して様々な試みを行ってまいりました。今回はその一環として「製本を科学する」というテーマに昨年から取り組んでいます。
現在の製本業を取り巻く環境は国内市場の縮小による景気低迷や新たな媒体の出現、いわゆるインターネットの普及による情報の伝達媒体の電子への移行、アップルのiPadやソニーのReader あるいはアマゾンのkindleといった電子端末の普及による電子化への移行といった現象によってそのビジネスモデルの基盤が揺らいでいます。
繰り返しになりますが、私たちのミッションは「紙の価値向上」と「製本業の地位向上」です。こういった時代背景の中でいかにしたら紙の特性を生かし、紙でしか表現できない伝えることのできない、あるいは紙でなくては出来ないものとは何か、そしてその紙の加工に従事している私たちは今何をすべきなのかを検討してきました。その解が「製本を科学する」ということなのです。
私たちは日常の作業の中で技術の継承として、頭で記憶するのではなく体で覚えることで受け継がれてきた紙を加工するという行為について、一度検証してもいいのではないかと考えました。ひとつの作業や材料が意味するものやことといった事象は何のためにあるのか、どういう環境下で作業するとどういう現象が起きるのか、実は知らないことが多々あるのではないかという疑問が浮かんだのです。冬の乾燥期に出来た上製本が書店に平積みしていたら表紙が反り返ってきた。ひと夏倉庫で眠っていた並製の本がパラけた。糊の層が切断面までないために表紙がむしれて仕上がっている。背割れしている。観音ののどが角折れしている。複写が発色している。小口糊の箇所の表紙の表側の色が変色している。ミシン目を入れたら割れるように取れてしまう。これらは一体何が原因なのか。その原因の根本を探るには、まず継承してきた技術を業界常識としてとらえるのではなく、なぜそうするかということを一度掘り下げてみることで、事故の未然防止や新たな製造方法あるいは製品開発の発見につながるのではないかと考えます。
丸背のRは何度が適正なのか?チリの幅は決まっているのか?ホットメルトの糊の層は何ミリが適正か?といったことからPUR接着剤は果たして環境にやさしいのか?本にとってもっと有効な糊があるのではないのか?といった疑問、あるいは断裁機の包丁の刃が磨耗するのはなぜなのか?超硬とハイスではなぜ刃もちが違うのか?コート紙を断裁するのに何tで何ストロークするとどのような現象が発生するのか?そもそもかぶりは何でおきるのか・・・等々、知っているようで知らないこと、あるいは今さら聞くに聞けないことをもう一度おさらいしようとする活動です。
そして、ここからが重要なのですが、こういった細かい疑問や質問を定性的ではなく定量的にとらえることなのです。「もうちょっときつくプレスをかけて」とか「もう少し糊を入れて」といったように勘や経験に基づいた判断ではなく、数値化することによって出来る判断を目指すのがこの活動になります。逆に言うとこれは基本なのです。これは最低条件なのです。その上で各社の積み上げてきた経験や体験が各社の競争力となっていくと考えるのです。また数値化することで標準化、見える化を推進し、より平易に基本的な技術の継承・伝承の助力になり、製本技術の進化発展に貢献できるのではないかと考える次第です。それこそが「製本を科学する」ということの真意なのです。
企業を評価する価値には機能的な価値としての設備や工場規模、立地、社員数、売上高、収益といった数値であらわされるものと、技術、知識、勘、作業場の工夫といった数値化できない、積み上げられてきたものである経験的な価値があります。製本+シナジー創造特別員会では、この積み上げられてきた数値化できない暗黙知といわれる定性的な分野を詳らかにすることによって、新たな価値の創造を目指そうとしているのです。機能的価値だけでなく経験的価値・意味的価値を向上させることで各企業の、コア・コンピタンス(その企業の核となる強み、なぜあなたの会社には仕事があるのですか?と問われた時の答えとなる解)を確認し、模倣困難性(プロが見てもどうやって作っているのかが見えない、わからない技術)を高めることで専業者としてのレーゾン・デートル(存在意義)を高めていければと考えています。