製本界 令和7年5月号
表紙の解説
アナログとデジタルの境界を越え、製本を通じて「明るい未来」を都市にもたらす、新たな可能性を表現
アナログとデジタルの境界を越え、製本を通じて「明るい未来」を都市にもたらす、新たな可能性を表現
特定技能外国人雇用とAIの未来
港支部 支部長 林 俊吉
先日、ベトナムのハノイ、ハイフォンに行く機会があり、そこの工場の視察や雇用に関しての講義を受けてきました。そこでひとつ気になったことがありました。それは日本よりもスマホが浸透しているように思えたことです。およそ日本ではスマホを使わないような(使えないような)人でも、スマホを弄っていました。そこで、「ベトナムと特定技能外国人雇用とAIと製本業」を題材にパソコンでAIに作文してもらいました。
以下がそれです。
「日本の労働力不足を解消する手段として、特定技能外国人の雇用制度が注目されています。中でもベトナムは重要な送り出し国であり、介護、建設、農業といった分野に加え、製本業にもその労働力が活用されています。製本業は日本の出版文化を支える重要な産業であり、繊細な技術と細やかな作業が求められます。ベトナム人労働者は、その勤勉さと器用さを活かし、日本の製本業において貴重な存在となっています。
製本業では、伝統的な手作業が多く行われる一方で、近年はAI技術の導入が進んでいます。AIは、作業効率化や品質向上に貢献するとともに、特定技能外国人労働者の支援にも役立っています。例えば、作業工程の自動化に加え、言語翻訳AIを活用することで、日本語が苦手な労働者でも作業指示を正確に理解することが可能になります。これにより、労働者と雇用者のコミュニケーションが向上し、チーム全体の生産性を上げることができます。
さらに、製本業の分野におけるスキルアップのために、AIを活用したトレーニングが注目されています。オンライン教育プラットフォームやVR技術を使った実践的な学習プログラムが、外国人労働者にとって新しいスキル習得の場となっています。また、製本業における日本の伝統的な技術や美意識を学ぶことで、労働者自身の文化理解が深まり、日本の産業文化との融合が期待されています。
ただし、AIの進化によって製本業における作業の一部が自動化される可能性があり、人手が不要になる部分も懸念されています。そのため、AIを適切に活用し、特定技能外国人労働者と製本業との共存を図る仕組みを構築する必要があります。
ベトナムと特定技能外国人雇用、製本業、そしてAIは、日本の労働市場と産業文化に新しい価値を生み出す可能性を秘めています。その実現には、教育や技術支援、文化的理解を深める努力が欠かせません。AIを活用し、多様性を尊重した持続可能な未来を築くことが求められています。」
以上。凄くないですか?まともな、いや、むしろ核心を突いていますよね。ここに人間のオリジナリティ、むしろ突飛な発想を融合させればきっと明るい未来が見えてくるのではないかと思う今日この頃です。シンギュラリティは恐くない。そう私は信じています。
私ども製本+シナジー創造特別委員会では、「紙の価値向上」「製本業の地位向上」を目指して様々な試みを行ってまいりました。今回はその一環として「製本を科学する」というテーマに昨年から取り組んでいます。
現在の製本業を取り巻く環境は国内市場の縮小による景気低迷や新たな媒体の出現、いわゆるインターネットの普及による情報の伝達媒体の電子への移行、アップルのiPadやソニーのReader あるいはアマゾンのkindleといった電子端末の普及による電子化への移行といった現象によってそのビジネスモデルの基盤が揺らいでいます。
繰り返しになりますが、私たちのミッションは「紙の価値向上」と「製本業の地位向上」です。こういった時代背景の中でいかにしたら紙の特性を生かし、紙でしか表現できない伝えることのできない、あるいは紙でなくては出来ないものとは何か、そしてその紙の加工に従事している私たちは今何をすべきなのかを検討してきました。その解が「製本を科学する」ということなのです。
私たちは日常の作業の中で技術の継承として、頭で記憶するのではなく体で覚えることで受け継がれてきた紙を加工するという行為について、一度検証してもいいのではないかと考えました。ひとつの作業や材料が意味するものやことといった事象は何のためにあるのか、どういう環境下で作業するとどういう現象が起きるのか、実は知らないことが多々あるのではないかという疑問が浮かんだのです。冬の乾燥期に出来た上製本が書店に平積みしていたら表紙が反り返ってきた。ひと夏倉庫で眠っていた並製の本がパラけた。糊の層が切断面までないために表紙がむしれて仕上がっている。背割れしている。観音ののどが角折れしている。複写が発色している。小口糊の箇所の表紙の表側の色が変色している。ミシン目を入れたら割れるように取れてしまう。これらは一体何が原因なのか。その原因の根本を探るには、まず継承してきた技術を業界常識としてとらえるのではなく、なぜそうするかということを一度掘り下げてみることで、事故の未然防止や新たな製造方法あるいは製品開発の発見につながるのではないかと考えます。
丸背のRは何度が適正なのか?チリの幅は決まっているのか?ホットメルトの糊の層は何ミリが適正か?といったことからPUR接着剤は果たして環境にやさしいのか?本にとってもっと有効な糊があるのではないのか?といった疑問、あるいは断裁機の包丁の刃が磨耗するのはなぜなのか?超硬とハイスではなぜ刃もちが違うのか?コート紙を断裁するのに何tで何ストロークするとどのような現象が発生するのか?そもそもかぶりは何でおきるのか・・・等々、知っているようで知らないこと、あるいは今さら聞くに聞けないことをもう一度おさらいしようとする活動です。
そして、ここからが重要なのですが、こういった細かい疑問や質問を定性的ではなく定量的にとらえることなのです。「もうちょっときつくプレスをかけて」とか「もう少し糊を入れて」といったように勘や経験に基づいた判断ではなく、数値化することによって出来る判断を目指すのがこの活動になります。逆に言うとこれは基本なのです。これは最低条件なのです。その上で各社の積み上げてきた経験や体験が各社の競争力となっていくと考えるのです。また数値化することで標準化、見える化を推進し、より平易に基本的な技術の継承・伝承の助力になり、製本技術の進化発展に貢献できるのではないかと考える次第です。それこそが「製本を科学する」ということの真意なのです。
企業を評価する価値には機能的な価値としての設備や工場規模、立地、社員数、売上高、収益といった数値であらわされるものと、技術、知識、勘、作業場の工夫といった数値化できない、積み上げられてきたものである経験的な価値があります。製本+シナジー創造特別員会では、この積み上げられてきた数値化できない暗黙知といわれる定性的な分野を詳らかにすることによって、新たな価値の創造を目指そうとしているのです。機能的価値だけでなく経験的価値・意味的価値を向上させることで各企業の、コア・コンピタンス(その企業の核となる強み、なぜあなたの会社には仕事があるのですか?と問われた時の答えとなる解)を確認し、模倣困難性(プロが見てもどうやって作っているのかが見えない、わからない技術)を高めることで専業者としてのレーゾン・デートル(存在意義)を高めていければと考えています。